雨上がりの朝、町工場「東雲精機」の事務所で、営業企画のひなたはGA4の画面をじっと見つめていた。昨日、佐伯が連れてきた見込み客は、「ChatGPTでおすすめの計測会社を探し、御社のページを開きました」と話していたのに、画面に並ぶ流入元は「Referral」と「Direct」ばかりだった。
「この商談は、どこから来たのだろう」
営業の佐伯が開いたCRMの案件カードには、問い合わせと日程調整の記録がある。けれど、その前にAI検索から訪れた足跡は、GA4のどこにも見えない。ひなたはChatGPTやGeminiなどの生成AI検索、リファラー情報、カスタムチャネルグループという言葉を小さくメモした。見えない訪問を、問い合わせから商談までどうつなぐか。小さな工場の白い壁に、計測設計の課題が浮かんだ。
この記事の答え
- 結論生成AI検索からの商談は、流入元を問い合わせからCRMまで設計すれば追跡できます。
- 根拠GA4の分類だけに頼らず、イベント、フォームの流入情報、CRMを一つの流れで連携します。
- 最初の一歩まず問い合わせフォームに流入元を保存する隠し項目を設け、送信からCRM登録までテストします。
第1章 「Referral」とだけ表示された朝のGA4

第1章 「Referral」とだけ表示された朝のGA4 - 本文
雨上がりの朝、町工場向けの計測管理SaaSをつくる東雲精機の事務所に、細い機械音が響いていた。窓の外では、屋根から落ちる雨つぶが、ぽつ、ぽつと排水溝をたたいている。ひなたは湯気の消えかけたマグカップを横に置き、ノートパソコンでGA4の集客レポートを開いた。
ひなたは、数字の並びを整えるのが好きだった。流入元、見たページ、問い合わせまでの動きが一本の線になっていると、遠くにいるお客さまの足音まで聞こえる気がした。けれど、その朝の画面には、どうしてもつながらない線が一本だけ残っていた。
昨日の夕方、営業の佐伯が、うれしそうにひなたの机まで歩いてきた。手には、商談の予定が書かれた白いメモがあった。
「新しい見込み客が決まりました。うちの会社を、ChatGPTで見つけたそうです」
佐伯は、工場向けの計測サービスを探していた人だと話した。いくつかの会社を比べたあと、東雲精機のページを開き、そのまま問い合わせフォームに進んだらしい。
「お客さまは、はっきりそう言っていたの?」
「はい。『ChatGPTでおすすめの計測会社を探して、御社のページを開きました』と。だから、ひなたさんにも伝えておこうと思って」
その言葉を思い出しながら、ひなたは画面を下へ動かした。集客レポートに並ぶ流入元は、ReferralとDirectだった。見慣れた表示なのに、昨日の見込み客へ続く入口だけが、薄い霧の向こうに隠れているようだった。
Referralは、ほかのサイトから来た訪問をまとめたものだ。Directは、リンク元が分からない訪問や、直接来たように見える訪問を含んでいる。そこにChatGPTやGeminiと書かれた行はなく、ひなたは同じ画面を何度も更新した。
「この商談は、どこから来たのだろう」
更新の丸い矢印が回り、数字が一度消えた。すぐに画面は戻ったが、ReferralとDirectの表示も、昨日と変わらなかった。
ひなたは次に、営業が使っているCRMを開いた。CRMは、問い合わせや商談の予定を記録する営業案件の管理画面だ。そこには、問い合わせを受けたこと、佐伯が返信したこと、次の打ち合わせの日程まで、きちんと残っていた。
けれど、そのお客さまがページを開く前の記録はなかった。問い合わせのカードには、白い線が途中で切れたような空白がある。ひなたはその空白を指でなぞるように、画面をじっと見つめた。
佐伯が、後ろから静かに声をかけた。
「GA4に出ていないなら、ChatGPTから来たという話は間違いなのかな」
「ううん。お客さまの記憶が間違いとは思わないよ。GA4に見えているものと、お客さまが見たものが、同じ形で残っていないだけかもしれない」
ひなたはそう答えたものの、自分の声にも迷いが混じっているのを感じた。訪問の入口を示すリファラー情報が残ることもあれば、途中で消えることもあると聞いたことはあったが、目の前の商談と結びつけて考えたことはなかった。
佐伯はCRMの案件カードを閉じずに、ひなたの画面と見比べた。営業側には、名前と会社名と相談内容がある。アクセス解析側には、ReferralとDirectという大きな箱だけがあり、その中に誰の足音が入っているのか分からなかった。
「営業の記録と、訪問の記録が、別々の場所にあるんだね」
「そう。問い合わせのあとなら追える。でも、その前にどこで知ったのかは、今のままだと見えにくい」
事務所の奥で、計測機器を包む段ボールが折りたたまれた。窓辺では、雨上がりの光が白い壁に広がっていく。ひなたはノートを開き、ChatGPT、Gemini、生成AI検索、リファラー情報という言葉を書き並べた。
その下に、もう一つの言葉を加えた。カスタムチャネルグループ。難しそうな名前だったが、ひなたは小さく言い直した。
「見えない訪問を、あとから見つけられる道しるべにする」
まずは、AIの回答で会社が紹介されたことと、そこから実際にページへ来たことを分けて考えなければならない。さらに、ページを訪れたあと、問い合わせになり、商談へ進んだことも、営業の記録とつなげる必要がある。
佐伯は白いメモをひなたのノートの横に置いた。そこには、昨日の見込み客の会社名と、次の打ち合わせの日だけが書かれていた。
「次の商談までに、少しでも足跡を見つけられるかな」
ひなたはGA4の画面を閉じずに、CRMの案件カードも残した。ReferralとDirectの間にある見えない道を、二つの記録からたどり始めた。雨の音が止んだ事務所で、ひなたのキーボードを打つ音だけが、細く長く続いていた。
第2章 「AIで見つけたのに、AI流入ではない」

第2章 「AIで見つけたのに、AI流入ではない」 - 本文
営業会議で、見込み客の言葉とGA4の画面が食い違った。ひなたは、最初の計測設計に抜け道があったことに気づいた。
小さな会議室には、雨上がりの光が差していた。壁際のホワイトボードには、昨日の商談予定が三つ並んでいる。佐伯はノートを開き、見込み客との会話を読み上げた。
「計測機器の選び方を、ChatGPTに聞いたそうです。回答に東雲精機のページが出てきて、そのリンクを開いた、と」
ひなたはうなずきながら、ノートパソコンを会議室のモニターにつないだ。GA4の画面には、昨日の訪問が並んでいる。けれど、AI検索から来たような名前は見当たらなかった。
「この商談に近い時間の訪問は、ここです。チャネルはReferral。あとはDirectです」
「Referralって、紹介元がある訪問ですよね」
「はい。参照元には、chatgpt.com / referralのように残ることがあります。でも、今回のレポートでは、AI専用の分類に入っていません」
佐伯は画面に顔を近づけた。青い棒グラフの下に、「Referral 12」「Direct 8」と表示されている。その数字のどこにも、昨日の見込み客の声が結びついていなかった。
ひなたは、集計条件を開いた。これまで彼女は、GA4の標準的な「AI Assistant」系の分類が拾ったものだけを、AI流入として見ていた。そこに表示されなければ、AIから来た訪問ではないと、知らないうちに線を引いていたのだ。
「私、分類に頼りすぎていました。AIから来た人を探すなら、AI Assistantの列を見ればいいと思っていて……」
「でも、実際には来ている。お客さま本人が、そう言っているんですよね」
「はい」
「なら、AIから来た人がいないのではなく、見分けられていないのでは?」
その言葉が、静かな会議室に残った。ひなたは、昨日の商談メモと画面を交互に見た。見える数字のほうを正しいと思い、見込み客の声を例外にしていたことに気づいた。
彼女はホワイトボードに「通常ブラウザ」と書いた。AIサービスの回答から通常のブラウザへ移り、リンクを押せば、参照元が残ることがある。だが、アプリ内ブラウザで開いた場合や、リンクをコピーして別の画面に貼った場合は、参照元が消えることもある。
「共有ボタンから送られたリンクを、別の人が開くこともあります。そうなると、Directに見えるかもしれません。ChatGPTやGeminiの名前が、いつも記録されるわけではないんです」
「つまり、Referralなら確実にAI、Directなら確実に違う、とは言えない」
「その通りです。AI検索の回答を見ただけで、サイトを開かない人もいます。引用された事実と、サイトに訪れた記録も、同じものではありません」
ひなたは前夜に読んだ、生成AI検索に自社が引用されているか確認・計測する手順と可視化方法の一節を思い出した。AIの回答で名前やページが使われたことと、そこから訪問が生まれたことは、別々に記録する必要がある。画面の一列だけでは、商談までの道のりはつながらない。
「では、AI流入を全部捕まえる、とは書かないほうがいいですね」
佐伯の声は、少しだけ明るくなった。ひなたもペンを持ち直した。
「はい。まずは、判定できたAI流入と、判定できない流入を分けます。Referralに残ったChatGPTやGeminiなどは、参照元として確かめる。AI Assistantに入らないものは、カスタムチャネルで補います」
「判定できないものも、失敗として消さない?」
「消しません。分からないものを分からないまま残すことも、計測の一部です」
ホワイトボードの中央に、ひなたは二本の線を引いた。一本は「AI回答・引用」。もう一本は「サイト訪問」。その先に、「問い合わせ」「日程調整」「商談化」と小さく続けた。
GA4は訪問とサイト内の動きを見る。CRMは問い合わせの内容と営業の進み具合を見る。二つを同じ番号の案件で結べば、見えない入口にも、少しずつ形が生まれるはずだった。
ひなたは、佐伯の商談カードに表示された問い合わせ日時を見つめた。次に確認するのは、流入元の名前だけではない。どのページを開き、問い合わせを送り、日程調整へ進んだのか。その細い道を、今度は途中で見失わないようにすることだった。
第3章 ホワイトボードに描かれた商談までの道

第3章 ホワイトボードに描かれた商談までの道 - 本文
ひなたが社内のデータ設計担当、黒田に相談すると、黒田は会議室のホワイトボードの前に立った。白い板には、流入から商談までを一枚で見渡す道が描かれようとしていた。
窓の外では、雨つぶが工場の屋根から静かに落ちていた。佐伯もCRMの案件カードを開いたまま、二人のそばに立った。ひなたは、ChatGPTから来たはずの見込み客の足跡が、ReferralやDirectの奥に隠れていることを話した。
「まず、AI検索を正確に当てる方法だけを探すのはやめましょう」
黒田はペンを走らせた。
「大事なのは、どこから来たかだけではありません。AI回答で名前やページが出たという露出、サイトを訪れたという流入、そして問い合わせから先の商談を、別々の道として見ることです」
黒田は板の左端に「AI検索からの訪問」と書いた。そこから右へ、「サービスページの閲覧」「問い合わせ・資料請求」「日程調整」「営業が確認した商談」「CRM上の案件ステージ」と、六つの箱をつないだ。
「この道なら、AI検索の出発点が見えなくても、途中から先を追えます。訪問だけでなく、問い合わせや商談化に関係する出来事も、GA4へ送る設計にするんです」
「問い合わせが、道の途中の目印になるんですね」
「そうです。たとえば、見込み客を得たときの generate_lead、問い合わせ完了、日程調整完了。名前は東雲精機の営業の流れに合わせて決めればいいでしょう」
ひなたは「generate_lead」の下に小さく線を引いた。フォームを送った人が、すぐ商談になるとは限らない。けれど、その一歩を記録できれば、佐伯が確認した商談や、その後の案件ステージまで道が続く。
佐伯はフォーム画面を思い浮かべた。そこには氏名、会社名、メールアドレスが並んでいる。
「フォームの内容を、そのままGA4に送るんですか?」
「いいえ。個人名やメールアドレスは送りません」
黒田は首を横に振り、二つの箱を描いた。左には「GA4」と書き、クライアントIDと流入情報を入れた。右には「CRM」と書き、案件IDを入れた。
「GA4では、誰かを特定しないクライアントIDや、参照元などを持ちます。CRMでは営業が使う案件IDを持ちます。その二つを、社内で決めた安全な対応表で結びます。個人情報を分析画面へ持ち込まなくても、訪問から案件までの流れは確認できます」
「お客さまの名前を、見えない道しるべにしないんですね」
ひなたの声に、黒田はうなずいた。白い壁に差した朝の光が、二つの箱の間を明るく照らした。
次に黒田は、GA4の画面を開いた。Referralは、ほかのサイトから来た訪問を入れる箱だという。そこへ、AIサービスからの訪問も一緒に入っている可能性があった。
「ここに、自分たちで決める箱を作ります。名前は AI Search。チャネルグループというのは、流入を入口ごとに分類する箱のことです」
黒田は条件欄に、chatgpt.com、chat.openai.com、openai.comと書いた。続けて、アクセスログで実際に確認できたAIサービスのドメインも候補に加えた。
「このAI Searchを、Referralより上に置きます。GA4は上から順に判定するので、先にAI Searchへ入れば、AIサービスの訪問がReferralに隠れにくくなります」
ひなたは、ChatGPTやGeminiから来た訪問がサービス別に見える画面を想像した。Perplexityなど、ログに現れた別の入口も、あとから条件へ加えられる。
「ただし、空白を全部AI検索にしてはいけません。アプリ経由やリンク情報が消えた訪問は、判定できないまま残ることがあります」
黒田は、ホワイトボードの右下に大きく一つの欄を残した。
判定できないAI流入
「過去データにも、新しいチャネルの分類を適用できる場合があります。でも、プライマリチャネルグループ、つまりレポートの基本になる分類箱を変えると、過去の見え方や集計に影響することがあります。変更前後のレポートを確認してから進めましょう」
佐伯は、案件カードとGA4の探索レポートを交互に見た。黒田は最後に、Looker Studioの画面を描き、AI Searchからの訪問、サービスページの閲覧、リード、日程調整、商談、案件ステージを同じ画面で追う形にした。
「AI回答に引用されても、クリックされないことがあります。だから、回答の中で東雲精機が言及されたか、どのページが引用されたかは、手動確認の記録に残します。GA4はサイト内の流入と行動、AI回答の確認は露出と引用を見る場所です」
「見えないものを、見えたことにしない。でも、見えるところまでは道をつなぐ」
ひなたは、黒田の言葉を小さなノートに書いた。昨日まで数字の下に沈んでいた商談が、一本の線の途中に置かれた気がした。
工場の奥で、加工機が低く動き始めた。ひなたはホワイトボードの最初の箱を指でなぞった。
「まずは、この道を作ってみます。AI検索を無理に当てるのではなく、訪問、問い合わせ、日程調整、商談を確かめられるように」
佐伯がCRMの案件カードを閉じ、黒田がGA4の設定画面を保存した。白い板の端には、まだ空白のままの「判定できないAI流入」が残っていたが、その空白さえ、これから確かめるべき大切な場所に見えていた。
第4章 カスタムチャネルグループの順番を直す夜

第4章 カスタムチャネルグループの順番を直す夜 - 本文
夕方、ひなたと黒田は、事務所の窓から雨上がりの空を見ていた。二人はGA4の管理画面を開き、AI Searchというカスタムチャネルグループを作り始めた。けれど、最初のテストで、AI検索からの訪問がReferralに分類された。
「条件は合っているはずなのに、どうしてReferralなの?」
ひなたが首をかしげると、黒田は画面の右側を指さした。AI Searchの条件はReferralの下に置かれていた。カスタムチャネルグループでは、上にある条件から順に判定されるため、Referralが先に訪問を受け止めていた。
「チャネルは条件だけでなく、評価される順番も見るんだ。先に合った条件が、訪問の名前になるよ」
ひなたはAI SearchをReferralより上へドラッグした。参照元の条件には、実際に確認できたchatgpt.com、chat.openai.com、openai.comを加えた。GeminiやPerplexityの参照元も、テストで確認できたものだけを後から足すことにした。
「知らないものまで、先に決めつけない。前に決めた約束どおりね」
黒田はうなずいた。GA4の自動分類だけでは拾えないAI流入もあるため、参照元やカスタムチャネルグループで補う方法は、AI検索からの流入をGA4で計測する手順でも紹介されている。別の記事には、AI流入のGA4実装を「30分」で進める手順もあるが、東雲精機の作業時間とは分けて考えた。
次に、問い合わせフォームの設計を開いた。ひなたはフォームの最初のページで、初回訪問時の参照元、直近訪問時の参照元、チャネル名、ランディングページ、リファラー、GA4のクライアントIDを受け取る欄を並べた。画面には見せない隠し項目に入れ、初回の値は上書きせず、直近の値だけを更新する形にした。
「初めて来た道と、最後に通った道を、両方残すんだね」
「そう。AI検索から来て、そのあと展示会ページを見て問い合わせる人もいる。最後の流入だけでは、最初のきっかけが消えてしまうからね」
営業の佐伯が使うCRMには、案件ID、初回流入、直近流入、AI検索判定、商談ステージを保存することにした。個人を追うためではない。問い合わせという一件の出来事と、その前後の流入を、案件の道として確認するためだった。
予約フォームは、東雲精機のサイトとは別ドメインにあった。そこで黒田はGA4のクロスドメイン計測を確認し、問い合わせページから予約ページへ移るときに、クライアントIDと流入情報が途切れないかを調べた。URLパラメータを受け取る設定も見直し、フォームの隠し項目へ値を渡す処理をつないだ。
窓の外が暗くなったころ、ひなたはChatGPTで「計測設計に強い町工場」と検索した。回答に出た東雲精機のリンクを開き、すぐにGA4のリアルタイム画面とDebugViewを見た。参照元にはchatgpt.com / referralが表示され、今度はAI Searchに分類されていた。
「来た。チャネルは直ったね」
ひなたは問い合わせフォームを開き、会社名をテスト用に入力した。送信ボタンを押すと、DebugViewにinquiry_submitイベントが現れた。だが、CRMの案件カードには、初回流入もAI検索判定も入っていなかった。
二人はフォームの送信ログを確認した。問い合わせページまでは値が入っていたが、送信直前の隠し項目は空欄だった。別ドメインの予約フォームへ移る前に、フォームの再読み込みが起き、ブラウザに保存した値を隠し項目へ戻す処理が抜けていた。
「流入は見えているのに、問い合わせで消えていたんだ」
黒田は、フォームを開いたときに保存値を読み込む処理を加えた。送信前には、初回流入と直近流入、チャネル名、ランディングページ、リファラー、クライアントIDをもう一度確認するようにした。予約フォームへ進むリンクにも、必要な値を引き継ぐ処理を残した。
ひなたは同じ手順を、最初からやり直した。ChatGPTからリンクを開き、ページを移動し、問い合わせフォームを送り、予約フォームへ進んだ。今度はDebugViewのイベントに続いて、CRMの案件カードへAI Search、chatgpt.com / referral、問い合わせページのURL、商談ステージの初期値が届いた。
佐伯はカードを見て、静かに笑った。
「これなら、商談になったあとも道をたどれる。数字だけでなく、どこから来て、どのページを見て、いつ相談になったかが残るね」
最後に、ひなたはLooker Studioでレポートを作った。画面には「AI Search」「Referral」「Direct」「判定不能」の四つを並べ、流入数だけでなく、ランディングページ、問い合わせ、予約、商談ステージまで見られるようにした。AIの回答に引用されても、クリックされないことがあるため、回答内の引用記録とGA4の訪問は別の欄に置いた。
「判定不能も、ちゃんと置いておくのね」
「うん。空白を都合よくAI Searchにしない。わからないものを残すほうが、次の改善につながるから」
白い壁に映るレポートの色が、夜の事務所をやわらかく照らしていた。まだ完璧な道ではない。それでも、見えなかった訪問が問い合わせと商談のそばまで、少しずつつながり始めていた。
第5章 商談カードに戻ってきたAI検索の足跡

第5章 商談カードに戻ってきたAI検索の足跡 - 本文
数日後の営業会議で、佐伯は新しい案件カードを開いた。画面には、AI検索からの訪問、問い合わせ、日程調整、商談化までが、一本の流れとして並んでいた。
「前は、ここにReferralとしか出ていなかったよね」
白い会議室の窓から、やわらかな光が差していた。佐伯の指が止まった先には、流入元として「AI Search」と表示されている。東雲精機のページを最初に見たきっかけと、問い合わせ直前に訪れた場所は、別々の欄に保存されていた。
ひなたは、案件カードの左側を指さした。
「ここが初回接点です。最初にAI検索から来たのか、それとも展示会や検索結果から来たのかが分かります。右側は直近接点なので、商談の前にどのページを見ていたかを確認できます」
佐伯は画面をゆっくりスクロールした。初回接点には「AI Search」、直近接点には製品仕様のページが記録されている。その下には、フォーム送信の日時と、オンラインでの打ち合わせを希望した記録が続いていた。
「これなら、最初の出会いと、相談を決めた瞬間を混ぜずに見られるね」
「はい。どちらも大事ですが、同じものではありません」
ひなたがLooker Studioを開くと、工場の営業活動を映す小さな画面が現れた。AI Searchを起点にした訪問から、問い合わせ、日程調整、商談へ進んだ案件が、段階ごとに確認できるようになっている。GA4はサイトへの訪問や、その後の行動を見る土台として使い、AIの回答内での引用や言及は別に記録する設計だと、ひなたは説明した。出典3 出典4
「ここにある案件は、営業のメモとも照らせます」
佐伯はCRMのメモを開いた。そこには、顧客が「ChatGPTで計測会社を比較した」と話していたことが残っていた。アクセスデータの「AI Search」という判定と、商談で聞いた言葉が、同じ案件カードの中で静かに重なった。
「このお客さまは、話していたことと記録が合っているね」
「そうですね。ただし、全部が同じように見えるわけではありません」
ひなたが別のカードを開くと、初回接点の欄には「判定不能」と表示されていた。リファラーが残っていないため、AI検索から来たのか、別の経路だったのかを決められない案件だった。AIの回答を読んだだけでページを開かなければ、GA4に訪問の記録が残らない場合もあるため、画面の空白を無理に埋めないことが大切だった。出典4
「判定不能を、AI Searchに入れてしまわないの?」
「入れません。フォームの回答や営業ヒアリングは補助情報として残します。でも、確かめられないものは、確かめられないままにします」
その言葉を聞いて、佐伯は小さくうなずいた。以前なら、Referralの箱に案件を戻して終わっていた。今は、分かるものと分からないものを分けたうえで、顧客との会話も一緒に見られる。
会議の空気は、いつの間にか変わっていた。誰かが「AI流入は何件あるのか」と尋ねる代わりに、案件カードのステージを見ながら「この訪問は問い合わせまで進んだのか」「日程調整の前に、どの説明ページを読んだのか」と話している。数字を競う声ではなく、一件の顧客がたどった道を確かめる声が、机の上を行き交った。
ひなたは、最初に見た古いレポートを思い出した。そこにはReferralとDirectが並び、昨日の見込み客がどこから来たのか分からなかった。今の画面には、完全ではなくても、初めて訪れた場所と商談へ向かった道が残っている。
佐伯は案件カードを閉じずに、営業メモを書き足した。
「次の訪問では、最初に何を見て、最後に何を決め手にしたのかを聞いてみよう」
「はい。データだけで答えを作らず、お客さまの言葉と一緒に見ます」
窓の外では、雨上がりの道路をトラックが静かに走っていた。白い壁の事務所には、以前のような手探りの沈黙はなかった。営業とひなたは同じ案件カードを見ながら、訪問を商談へつなぐ次の一歩を話していた。
第6章 朝のダッシュボードに残る、見えない訪問者の席

第6章 朝のダッシュボードに残る、見えない訪問者の席 - 本文
朝、ひなたはLooker Studioの画面を開き、昨日までの流れを静かに確かめた。AI Search、Referral、Direct、そして「判定不能」の欄が、白い画面の上で四つの小さな窓になっていた。\n\n「AI Searchから、商談まで進んだ案件がひとつ。Referralにも、問い合わせへ続いた訪問があるね」\n\nひなたが画面を拡大すると、佐伯が後ろから椅子を引いた。AI Searchのカードには、顧客が書いた質問と、比較するときに見ていた条件が並んでいる。「計測設計を頼むなら、製造業の現場を知っている会社がよい」「GA4だけでなく、問い合わせ後の商談まで見たい」。短い言葉の向こうに、工場の担当者が迷いながらページを読んだ時間が見えた。\n\n「前は、流入元がReferralなら、それで終わりにしていたね」\n\n「うん。でも、AIの回答から来た人も、同じ箱に入ることがある。訪問チャット型のAIは参照元が残りやすいけれど、Google AI Modeのように検索と同じ場所で動くものは、通常の自然検索と分けにくいんだ」\n\nひなたは、画面の端にある小さな注記を指でなぞった。GA4はサイトへの訪問と、その後の行動を見る道具だ。AIの答えの中で名前が出たか、どのURLが引用されたかは、別の場所で確かめる必要がある。ひなたはその考え方を確認するため、GA4でAI検索流入を計測する解説を社内メモに添えていた。\n\n午前の作業は、検索結果の点検だった。ひなたはChatGPT Search、Perplexity、Google AI Modeを順番に開き、「計測設計 町工場」「製造業 GA4 問い合わせ 商談」「計測会社 比較」と入力した。自社名が言及されたか、根拠URLはどこか、料金や紹介内容に誤りがないかを、実行日と一緒にスプレッドシートへ写していく。\n\n「これは、引用を保証する作業ではないよね」\n\n独り言のように言ってから、ひなたは画面にメモを足した。AIの回答も引用も、毎回同じとは限らない。クロールされること、インデックスされること、回答に使われることも約束されていない。だから、顧客が参照する情報が、今どんな状態なのかを点検する。ひなたはその言葉を、柔らかな青い付箋に書いた。\n\n昨日の営業会議で出た顧客の質問も、テストデータに加えた。「競合と比べて、どこまで商談を追えますか」「AI検索からの訪問を、あとから断定できますか」。AIに回答を出させたあと、ひなたと技術担当の森が一文ずつ確認する。違うところには赤い線を引き、根拠になるページを添えた。\n\nそのとき、佐伯から新しい商談メモが届いた。\n\n「比較記事をAIに聞いて、会社のページを開いた」\n\nひなたはその一文を、CRMの案件カードに貼り付けた。初回接点には「AI検索の可能性」、問い合わせ欄には顧客の質問と日程調整の記録を入れる。GA4に残ったReferralだけを見て、AI検索から来たと決めつけることはしなかった。\n\n「わからないところは、わからないまま残すんだね」\n\n佐伯がそう言うと、ひなたはうなずいた。\n\n「うん。そのほうが、次に聞くことが見えるから」\n\n昼前、窓の外では、雨上がりの道路を小さな配送車がゆっくり走っていた。画面には、AI Searchから商談になった案件と、Referralに並ぶ訪問、Directの静かな数字が残っている。その隣で「判定不能」の欄も消えずにいた。\n\nひなたは新しい案件カードを開き、顧客の最初の言葉を入力した。白い壁に朝の光が戻り、見えない訪問者の席だけが、今日も空いたまま用意されていた。
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著者について
鈴木信弘(SNAMO)
鈴木信弘(SNAMO)- 静岡県焼津市を拠点に活動する総経験19年のフルスタックエンジニア。AI時代の次世代検索最適化技術「レリバンスエンジニアリング」の先駆的実装者として、GEO(Generative Engine Optimization)最適化システムを開発。2024年12月からSNAMO Portfolioの開発を開始し、特に2025年6月〜9月にGEO技術を集中実装。12,000文字級AI記事自動生成システム、ベクトル検索、Fragment ID最適化を実現。製造業での7年間の社内SE経験を通じて、業務効率75%改善、検品作業完全デジタル化など、現場の課題を最新技術で解決する実装力を発揮。富山大学工学部卒、基本情報技術者保有。
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