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ビジネスモデル変革

ビジネスモデル変革

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DXに挑む全ての企業が直面するのは、データを集めても現場が動かず、投資の効果が見えにくい現実です。あなたも日々の業務で“守りのDX”にとどまり、売上の伸びを感じられない苦しさを味わっていませんか。本記事は、中堅製造業のA社を舞台に、守りのDXを脱し攻めのDXへと転じる道筋を、4つの型と現場の実践視点で描きます。内製化とデータ民主化、アジャイルな小さな実験を軸に、CX向上と新規収益の両立を実現する具体的手法と、すぐ使える指標を提示します。読み進めるほど、実務に落とし込めるロードマップが浮かび上がるはずです。あなたの会社で今すぐ始められる3つの優先事項も示します。

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第1章:稼ぐ力を取り戻す旅の始まり

第1章:稼ぐ力を取り戻す旅の始まり - 本文

第1章:稼ぐ力を取り戻す旅の始まり

河合翔太は中堅製造業A社の事業推進担当。工場のラインは毎日止まらず稼働する一方で、経営陣は「DX投資が売上に結びつかない」と不満げだ。社内に集まるデータは増えたが、現場は従来業務の延長にとどまり、成果が見えない。多くの企業で「投資の7割が守りのDXに偏る」という声がある中、A社も例外ではなかった(技術的負債やベンダーロックインがデータ活用の妨げになっている)。

ある戦略会議で提示されたのは「攻めのDX」の4型と業界テーマだった。4型は次の通りだ。

  1. サービス化 — モノ売りから成果提供へ(サブスク・保守代行で顧客LTVを伸ばす)
  2. プラットフォーム化 — 場の提供とエコシステム形成でネットワーク効果を創出
  3. D2C/OMO — 直販とオンライン・実店舗の統合で顧客データを獲得
  4. データマネタイズ — AI予測や廃棄データの外販で新収益を創出

翔太は「サービス化」を軸に顧客と長期関係を築きつつ、「データマネタイズ」で新たな収益源を模索する方針を決意した。まずは「ハイインパクトかつ低リスク」のCX向上に絞り、現場に負担をかけない小さな実験を2領域選定。短期で可視化する指標として、NPS(顧客推奨度)、初期トラブルの解消時間(MTTR)、顧客解約率(churn)、単価(ARPA)を設定した。これにより「守りの改善」ではなく「稼ぐ価値」の可視化を狙う。

しかし初動は容易ではない。現場と経営の断絶、外部DX人材への過度な依存、既存ベンダーによるロックイン、蓄積した技術的負債が翔太の前に立ちはだかる。そこで翔太は、CDOを中心としたHRガバナンスでリスキリングを進め、内製化とマルチクラウド・オープン戦略でベンダー依存を抑え、2030年以降の競争力を支える基盤を作る必要があると確信する。さらに「2025年の崖」を意識し、短期成果と中長期の技術健全性を両立させる計画を次章で描くことを誓った。

学び:攻めのDXは単なる技術導入ではなく、「稼ぐ価値」を中心に4型を組み合わせ、業界テーマと接続する設計が鍵である。

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第2章:組織の壁にぶつかる

第2章:組織の壁にぶつかる - 本文

第2章:組織の壁にぶつかる

翔太は期待を胸に外部DX人材と契約し、短期での成果を狙ってIT投資を加速させた。だが現場に導入されたツールは形式がバラバラでデータ連携は進まず、費用だけが膨らんでいく。ベンダー側にナレッジが蓄積され、現場の専門知識が「ベンダーに帰属している」状態――これがまさにベンダーロックインの実態だった。経営層、特にCFOの「費用対効果が見えない」という懸念が強まり、投資の正当化が難しくなる。

構造的原因は三つに整理できた。第一に、ガバナンスの空白だ。プロジェクト権限と現場責任の境界が曖昧で、HRガバナンスやリスキリング計画が追いついていない。第二に、技術的負債の蓄積だ。短期最適の外部導入はレガシーと新技術の断絶を生み、データ形式の非互換が運用コストを増幅する。第三に、デジタル人材不足という外部環境だ。内製化の基盤が薄く、外注に依存せざるを得ない体制が続いたため、知識の流出と意思決定の遅延を招いた。

翔太は方向転換を決める。小さな実験で仮説検証するアジャイルな手法を採り、部門横断のガバナンスで権限と責任を再定義する。具体的には、まずマルチクラウドやオープン戦略を前提にベンダー依存を下げ、データの民主化で現場が自ら分析できる環境を構築する計画だ。並行してリスキリングを進め、内製化で外部人材に偏ったナレッジを社内に回収する。

この失敗と気づきは明確だ。固定化したベンダーロックは革新の足かせになる。技術と組織の両輪を同時に回すガバナンス設計――現場を動かす権限、HRによる能力開発、オープンで拡張可能な技術選択――がなければ、せっかくのDX投資は価値を生まない。翔太の学びは、投資先を変えるのではなく、投資を「現場で使える形」に変えることだった。

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第3章:アジャイル・スモールスタートで動かす変革

第3章:アジャイル・スモールスタートで動かす変革

第3章:アジャイル・スモールスタートで動かす変革 - 本文

第3章:アジャイル・スモールスタートで動かす変革

翔太は外部依存を断ち、現場主導の内製化を進めるため「アジャイル・スモールスタート」を採用した。まず提示した選択肢と、それぞれのメリット・デメリットを整理する。

  • アプローチA:アジャイル・スモールスタート(翔太の選択)

    • メリット:早期に現場価値(CX改善やデータ活用の初期効果)を確認でき、失敗コストが小さい。現場の納得感が高まり内製化が進む。
    • デメリット:スケール化には設計の標準化が必要。短期の断続的投資を経営に説明する工夫が必要。
  • アプローチB:一括(ビッグバン)導入

    • メリット:短期間で全社統一の仕組みを整えられる可能性。
    • デメリット:失敗時の損失が大きく、現場抵抗やベンダー依存を招きやすい。
  • アプローチC:部署別段階的内製化

    • メリット:部門事情に合わせやすくリスク分散が可能。
    • デメリット:横断連携が遅れ、データサイロ化しやすい。

翔太は具体的に5ステップで現場に落とし込んだ。1) 課題とMVPの定義、2) 営業・製造・ITの横断的小チーム、3) 2週間単位の高速イテレーション、4) 初期成果とKPIの経営報告、5) 成功パターンの標準化と横展開。週次で「この成果はどのKPIに寄与したか」を必ず紐づけ、成果を見える化したことで現場の抵抗は薄れ、意思決定の速度とCXが同時に向上した。小さな失敗を学習に変える文化が、攻めのDXへの転換を加速した。

MVP:最小限の機能で仮説を検証する製品。早期学習を目的とする。
KPI:事業目標を測る指標。短期・中期で追うべき数値を明確化する。
データ民主化:現場が自らデータにアクセスし意思決定できる状態。ガバナンスと教育が鍵。
アジャイル(高速イテレーション):短期間で繰り返し改善を行う手法。リスク低減と適応性向上が利点。

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第4章:組織間連携失敗の複合事例分析

第4章:組織間連携失敗の複合事例分析 - 本文

第4章:組織間連携失敗の複合事例分析

翔太のA社では、ITと営業の「アライメント不足」とガバナンス不在が、せっかくの現場データを寝かせる原因になっていた。ここではぐるなびと日産の教訓を踏まえ、現場で即実行できるステップを示す。

  1. アライメント・ワークショップ(0–2週)

    • 参加:経営、営業、製造現場、IT(各1オーナー)
    • 出力:共通KPI候補(LTV、NPS、チャーン等)と短期MVP仮説
    • テンプレ:問題仮説/期待効果/2週間で検証する成果指標
  2. データ所有とガバナンス設計(2–4週)

    • 決定:誰が「原本(ソース)」を保有するか/アクセスルール
    • 納品物:データカタログ+アクセス権マトリクス(非難しない“共有ルール”)
    • 参考施策:ぐるなびのようにデータ組織とUI開発の連携窓口を一本化
  3. IT/OT統合の素早い試作(4–8週)

    • 作業:現場センサ→軽量DaaSレイヤーに接続、CDPへ流すパイプを作成
    • 成果:経営ダッシュボードに現場KPIがリアルタイムで出ること(意思決定時間短縮)
  4. スモールスタートの反復(8週目以降、2週間サイクル)

    • 実験例:顧客接点改善(AIチャットボット導入)→NPS/CSATで評価
    • ルール:失敗は学びとして記録、成功は即ロールアウト
  5. データマネタイズと拡張(並行)

    • 条件:ガバナンスが安定したら、CDPでセグメント→新サービス案の検証
    • 指標:追加売上、チャーン低下、LTV上昇

定義ボックス
CDP:顧客データを統合し、行動に基づくセグメント化を可能にするプラットフォーム。
LTV:顧客生涯価値。投資対効果を見る長期指標。
NPS:推奨度を測る指標(顧客ロイヤルティ)。
CSAT:顧客満足度。短期の満足を可視化する。
チャーン:離脱率。早期検知で改善優先度が決まる。
DaaS(Data-as-a-Service):IT/OTのデータを抽象化してサービス化する考え方。

まずは「1. ワークショップ」「2. ガバナンス設計」「3. 小さなIT/OT接続」を最優先に。これができれば、ぐるなびの即時利用と日産の断面解消がA社でも再現可能になる。

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第5章:レジリエントな組織と変革を支えるガバナンス

第5章:レジリエントな組織と変革を支えるガバナンス

第5章:レジリエントな組織と変革を支えるガバナンス - 本文

第5章:レジリエントな組織と変革を支えるガバナンス

A社は「データはあるが現場が動かない」課題を、ガバナンス再設計で解決した。まずMAとSFAの連携を必須化し、営業とCXのデータを統合。結果、顧客応対時間が約40%短縮、クロスセル率が+18%、新規サブスク収益が9か月で+12%を達成した。
次にスキルマップで人材ギャップを可視化し、6か月で社内リスキリングを30%完了。採用と外部パートナーで残りを補い、ベンダーロックインと技術的負債を低減した。ぐるなびの事例では、データ組織とUI開発を統合してMVPのリードタイムを12週→4週に短縮し、A/B実験数が3倍、CTRが約15%向上した。
最後に組織横断のガバナンスボードを設置。月次でKPIとROI(例:投資回収を18か月以内に設定)を見直し、小さな成功を標準化して全社展開するプロセスを確立したことで、導入コストは半減した。
要点は単純:データ連携をビジネス成果に結びつけ、組織設計とスキル開発を同時に整え、透明な評価ループで小さな勝ちを積み上げること。これが変化に耐える「強い組織」を作る道だ。

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第6章:生成AIによる業務改革とROIの導入戦略

第6章:生成AIによる業務改革とROIの導入戦略 - 本文

第6章:まとめと次のアクション

A社の物語は「守りのDX」から「攻めのDX」への転換が、生成AIを軸に短期間で定量的な成果につながることを示しました。経理報告の作成工数を約50%削減し、ROIは単なるコスト削減にとどまらず品質向上・リスク低減・新規価値創出を合わせて評価すべきです。定義はシンプルに: ROI = (得られる価値合計)/(投資コスト)

例(概算):

投資コスト = ¥10,000,000
年間効果 = 人件費削減 ¥6,000,000 + 新規売上貢献 ¥32,000,000
ROI = (6M+32M)/10M = 3.8x

重要ポイント(箇条書き)

  • 生成AIは「自動化」→「業務再設計」で価値が倍増
  • 税制優遇(基礎3%、データ連携5%、特別償却30%等)を計画に組込む
  • 組織は横断ロードマップとKPI連携で採用率を高める(目標:全社員活用率86%を目指す)

今すぐの具体的アクション(実行順)

  1. 小さな実験:経理レポート自動化のPoC(30日)を設定、KPIは作成時間と誤り率
  2. 税制確認:税務担当と「投資優遇」の適用可否を確認し試算へ反映
  3. 展開計画:成功パターンをテンプレート化し、営業・生産へ横展開するロードマップを作成

結び:生成AIは道具ではなく戦略です。待機時間削減だけでなく、再配置されたリソースが新たな収益を生む流れを可視化して、攻めのDXを標準化してください。

関連キーワード

攻めのDX
サービス化
データマネタイズ
ベンダーロックイン
技術的負債
ガバナンス
内製化とリスキリング
データ民主化
アジャイル・スモールスタート
現場主導の内製化

著者について

鈴木信弘(SNAMO)

鈴木信弘(SNAMO)- 静岡県焼津市を拠点に活動する総経験19年のフルスタックエンジニア。AI時代の次世代検索最適化技術「レリバンスエンジニアリング」の先駆的実装者として、GEO(Generative Engine Optimization)最適化システムを開発。2024年12月からSNAMO Portfolioの開発を開始し、特に2025年6月〜9月にGEO技術を集中実装。12,000文字級AI記事自動生成システム、ベクトル検索、Fragment ID最適化を実現。製造業での7年間の社内SE経験を通じて、業務効率75%改善、検品作業完全デジタル化など、現場の課題を最新技術で解決する実装力を発揮。富山大学工学部卒、基本情報技術者保有。

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よくある質問

Q1「攻めのDXを4型で推進」とは具体的に何を指しますか?
記事ではA社が「攻めのDX」を4つの軸で進めると説明しています。要点はサービス化(製品→サービス化)とデータ活用による短期成果の可視化、さらに現場と経営の断絶やベンダーロックをCDO主導の人材育成・多クラウド戦略で克服し、2025年の崖を見据え中長期の健全性を確保することです。つまり、事業モデル変革・データ基盤整備・組織/人材改革・インフラ戦略の4領域を同時に回すことを指します。
Q2外部DX人材を入れると何が問題になりやすいですか?どう回避すべきですか?
主な問題は(1)ツールの不統一とデータ連携不足で費用が膨張、(2)ベンダーロック、(3)知識流出です。回避策はアジャイル実験で早期MVPを作る、横断ガバナンスでツール/データ基準を統一、オープン戦略でベンダー依存を下げ、リスキリングで内製化を進めることです。外部は短期支援・スキル移転に限定する契約設計も有効です。
Q3現場主導で内製化を進める最初のステップは何ですか?
小さく始めるスモールスタートとアジャイルを採用します。具体的にはMVP設定と短期KPI(例:2週間単位のリリース/検証)で成果を見える化し、部門横断のチームを編成、データ民主化と教育で現場の抵抗を減らす。2週間サイクルの反復で改善を文化化していくのが鍵です。
Q4現場データを活かすためにまず何を整備すればよいですか?
優先順位は次の3点です。1) 関係者ワークショップで目的と業務フローを合意、2) データの所有・アクセス設計を定義(誰がどのデータを使えるか)、3) IT/OT接続を迅速に実装して現場データを収集可能にする。これを起点に小規模反復で活用範囲を広げます。
Q5データ連携とガバナンスを再設計するとどんな効果が期待できますか?
MA/SFA連携やデータ統合により営業・マーケティングの業績向上が期待でき、適切なガバナンスとリスキリング、外部資源の併用で人材ギャップを埋められます。記事では組織横断の評価ループで小さな勝ちを標準化することで全社展開し、結果的にコストを半減できたとしています。
Q6生成AIを活用した攻めのDXはどのように進めればよいですか?
記事が推奨する3段階は、1) PoCで効果を検証、2) 税務確認(税制優遇の適用可否や扱いを確認)を行い、3) 展開テンプレートを作って横展開する、です。自動化と業務設計を組み合わせ、横断KPIで採用率86%を目指すとし、ROIは「価値総額÷投資」で約3.8倍を見込んでいます。
Q7ベンダーロックを避けつつ短期成果も出すための実務的な設計は?
実務設計のポイントは「短期のMVPで成果を出すが、基盤はオープンかつAPI中心に設計する」こと。具体的には共通データモデルとAPI仕様を定める、スモールなPoCは外部で実行しても成果物は移管可能にする、契約にスキルトランスファー条項を入れる、並行してリスキリングで内製力を高める、という組合せが有効です。